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横浜地方裁判所 昭和57年(ワ)29号 判決

原告

河本武

被告

山田正吾

主文

1  被告は、原告に対して金三、三四五、五六四円及びこれに対する昭和五七年一月一五日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  原告その余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は、仮に執行することができる。

5  被告が金一五〇万円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実及び争点

第一請求の趣旨

一 被告は、原告に対して金五〇〇万円及びこれに対する昭和五七年一月一五日から右完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二 訴訟費用は被告の負担とする。

三 仮執行の宣言

第二請求の原因

一 原告は、日本観光旅行社という名称で、海外旅行観光バス、全国温泉旅館等の総合案内を業としている。

二 昭和五三年一一月一一日午前一〇時ごろ、静岡県加茂郡東伊豆町稲取二五六二番地路上において、原告が日本ビクター添乗員として歩行中、被告の運転する乗用車がフルスピードで進行突進して来て原告に衝突これを転倒せしめ、左膝、左足、左胸部打撲傷を与えた。

三 以後、原告は、昭和五六年七月一四日までの間、熱川温泉病院、生麥病院、総合新川橋病院、真田病院、片山整形外科病院等において治療を続けて来たが、天候不順のときには足痛がやまず、不治のリユウマチとなつた。

四 原告は、観光案内業を営むことによつて顧客より支払われる旅行費用すなわち売上の平均二〇パーセントの利益を得ていたが、本件事故により顧客廻りができなくなり少からぬ固定客を失つた。

五 昭和五一年一〇月から同五三年一一月までに原告が獲得した顧客の旅行費用(売上)は別紙案内旅行一覧表のとおり、合計金四三、九九九、二九六円であり経費を控除した利益は四、三九九、九二九円であるから、二年間に原告が喪失した利益は金八七九万円となる。

六 そこで、そのうち金三〇〇万円及び原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料として金二〇〇万円合計金五〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五七年一月一五日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めるため本訴請求に及んだ。

第三請求の趣旨及び原因に対する答弁

一 請求棄却の判決及び担保を条件とする仮執行免脱の宣言を求める。

二 請求の原因一の事実は不知。同二の事実のうち原告主張のような事故が発生した事実は認め(但し、事故発生時刻は午前九時五〇分ごろである。)、その条は不知。同三の事実は不知。同四の事実は争い、同五の事実は不知。

三 原告主張の案内一覧表によれば、事故前一年間の売上は約三〇〇〇万円位で、そこから有料道路料、駐車料、入園料、フエリー代、ロープウエイ代、電車賃等を控除すると収益対象売上高は金二八〇〇万円位となり、これに対する粗利益率は一〇パーセントであることが業界の常識であるから、原告の得べかりし利益は二八〇万円程度である。

四 原告は、本件事故後も添乗員として仕事をしており、全く労働能力を失つていたわけではない。

理由

一 原本の存在及び成立に争がない甲第一、第二号証、同第四号証の一、二、同第五、第六号証、同第七号証の一から四まで、成立に争がない同第八号証、原本の存在及び成立に争がない同第九号証から同第一二号証まで及び原告本人尋問の結果によれば、請求の原因一から三までの事実が認められる。

二 原告本人の供述と弁論の全趣旨によれば、原告は顧客から支払われる旅行費用すなわち売上から有料道路料、駐車料、入園料、フエリー代、ロープウエイ代、電車賃を控除した収益対象売上高の二〇パーセントの利益を得ていたものと認められる。

三 原告本人尋問の結果及びこれにより真正に成立したものと認められる甲第一五号証の一から二三まで、二五、二七、三〇から三二まで、三四、三六によれば、昭和五二年一一月から同五三年一〇月まで一年間の原告の収益対象売上高の合計は別紙売上高一覧表のとおり金二八、四五五、六四七円であると認められるから、原告は、その二〇パーセントにあたる金五、六九一、一二九円の利益を一年間に得ていたものというべきところ、原告本人の供述によれば、本件事故後も完全に顧客を失つたものではないと認められるので、その五〇パーセントにあたる金二、八四五、五六四円が原告の失つた得べかりし利益の年額であるということになる。(原告は、得べかりし利益として二年分を請求しているけれども、既に認定した原告の傷害の程度によれば、本件事故により原告が十分に活動できなかつた期間は一年間に過ぎないと認められる。

四 従つて原告が本件事故により喪失した利益の支払を被告に求める原告の請求は右の限度で理由がある。

五 諸般の事情を考慮すれば、本件事故により原告の受けた精神的苦痛に対する慰藉料額は金五〇万円とするのが相当である。

六 よつて、原告の本訴請求は、被告に対して金三、三四五、五六四円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明白な昭和五七年一月一五日以降右完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その条は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、仮執行及びその免脱の宣言につき同法第一九六条の規定を各適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 三井哲夫)

案内旅行一覧表

〈省略〉

売上高一覧表

〈省略〉

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